犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

半年を経て 遂に聴くアランフェス

老ギタリストは、暗闇の中、車椅子で誘われ、舞台の中央に向かう。
ギターを持ち(ダキストのジャズラインのようだが、ヘッドのデザインが少し違う)、ライトの中に浮かび上がる。
静かに。静かに。「All The Things You Are」が、ソロ演奏で始まる。

昨年11月の公演延期から、半年待った、ジム・ホールのライブ。A列、客席最前列に座ったオレの目線の高さに、彼の抱えるギターがある。

1曲目を終え、老ギタリストは、ベーシストを迎え入れる。ロン・カーター。少し明るめのグレースーツに、長躯を包んだベーシストとのデュオ。視線を合わすだけで、彼らの間には、数億年に渡って培われてきた宇宙の法則が交わされるようだ。

2ndのラストは、ストリングスも入れての、「アランフェス協奏曲」 美しく切なく。

80歳、傘寿を目前にした老ギタリストのプレイは、若さ、熱さではなく、老練なテクニックに裏打ちされた、心を撃ち抜くグルーヴに満ちていた。
今、彼を観ることが出来たことを、誇りにも、幸せにも思う。

極上の演奏と、帰りに飲んだワインの、心地よい酔いに身を委ねて、今夜はゆっくり眠ることにしよう。