犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

あの夏の思ひが そこに描かれる

定時に上がれたので、梅田で「クライマーズ・ハイ」を観てきた。

1985年8月に起こった日航機墜落事故のことは、オレもよく覚えている。当時19歳だったオレは、大学の夏季特別研修で中国に行っていた。7月末から8月末にかけての1ヶ月、最初の20日間は北京の北方交通大学で語学研修を行い、残りの10日間、西安成都重慶武漢〜南京〜杭州〜上海と云うルートを回った。日本の新聞は、友諠商店(日本で云うデパートのようなもの)で数日遅れで手に入り、件の事故は、西安成都で知ったと思う。未曾有の大事故であったことと、歌手・坂本九氏や阪神タイガース球団社長・中野肇氏が亡くなったこともあり、大きな衝撃を受けたものだ。

クライマーズ・ハイ」は、事故当時、上毛新聞社の記者だった横山秀夫氏が、その取材体験を題材にして書いたベストセラー。NHKでドラマにもなっている。
オレは原作も未読、NHK版も観ていないので、今回の映画がどのくらい原作に忠実であるかは分からないのだが、映画そのものとして観て、これは相当に面白い作品だ。

未曾有の大事故を前にして、それを伝えようとする地方新聞の記者達を、ある部分ドキュメンタリー風に捉えた映像は力がある。画面にぐいぐい引き込まれていく。
凄惨な事故現場を目の当たりにし、精神的に追い詰められてしまう若い記者、現場の克明なレポートが社の上層部の判断で記事として使われず飛んでしまい、怒りを顕わにするやり手の記者と、板ばさみになり苦悩するデスク、自分の人脈からスクープをものに出来るかもしれないと気持ちがはやる女性記者、等々。
様々な登場人物の息遣い、思いが重なっていく。

些細なすれ違いから小競り合いを起こしつつも、新聞を創ると云う一点で繋がっている、局長、次長、部長、デスク、記者達。スクープ記事の裏取りに、締め切りをギリギリまで延ばし、販売部とぶつかることを承知で作戦を練るシーンなど、その緊張感が素晴らしい。

主人公、悠木(堤真一)は、23年前の事故の記憶を思い起こしながら、かつて友人と登るはずだった岩壁に挑む。友人、同僚、上司、家族。自分を取り囲む様々とぶつかりながら新聞を創っていたかつての時を清算するように。

熱く、骨太な、実に見ごたえのある作品だった。