犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

思ひ込み すれ違ふなり 親父殿

仕事中に、後輩と何気なく会話をしていて、父親と一緒に行動すると、必ず父親の方がはぐれる、と云う話題になった。
後輩は毎年のように、親父さんと一緒に、毎日放送の夏休みのイベント「オーサカキング」に出かけるらしいのだが、毎年、親父さんがはぐれてしまうのだと云う。
「そう云えば」と、オレも思い出したことがあって、こんな話をした。

1992年だから古い話になるが、甲子園で開催されるオールスターゲームの、3塁側内野席のチケットが2枚手に入った。誰かと一緒にと云っても当時彼女は居らず(今も居ないが)、都合の合う友人もつかまらず、試しに親父に「オールスター観に行くか?」と水を向けてみると「行く」と答えた。で、十何年振りに親父と一緒に野球観戦に出かけることになった。

当日、親父を助手席に乗せて車で出発。親父は駅からバス停2つほど手前の図書館に本を返すからそこで降ろしてくれと云う。オレは親父を図書館で降ろし、車を駅から少し離れた、国道沿いの無料の駐車場に停めてくるから駅で落ち合おう、改札の外で待っていてくれと云って駐車場へ向かった。

そして約30分、駐車場から駅まで戻り、改札に行ってみたが親父の姿が見えない。待てど暮らせど親父は現れない。当時は携帯も持っていなかったので直接連絡のしようもなく、念のために自宅にかけてみると、改札にオレの姿が見えないから先に電車に乗って甲子園に向うと云う言伝をしていた。何考えてるんだよ。チケット持ってるのはオレなんだから、大人しく待っていてくれればいいものを、何でたかだか30分、じっとしていられないんだ。文句を云っても始まらないので、もし親父から電話があったらとりあえず甲子園に向かってくれ、入場門前で待つか場内呼び出しをして、とにかくひとところにじっとして待っていてくれるよう伝言を頼んで、甲子園へ向かった。

さて、いざ着いてみても、入場門に親父の姿はないし、中に入っても呼び出しは聴こえないし、結局親父とは落ち合えず、オレは独りで試合を観ることになった。バファローズ石井浩郎がタイガースの仲田幸司からホームランを打ちMVP、パ・リーグが勝った。

家に戻ると親父は帰宅していて怒っていた。甲子園まで行ったが居らへんかったやないか。イヤイヤイヤ、最初に駅の改札で大人しう待っててくれてたらこんなことなってないやろ。お袋がオレの味方をする。お父さんは落ち着きないねん、買い物行ったかて、わたしが色々見てるあいだに、どっかふらふらっと行ってまうやろ。第一、改札で待っててくれ云うてんのに、何で電車乗ってまうねん、先着いたもんがじっとしててくれたらすれ違いとか起こる訳ないやろ。うるさい、ちゃんと云うとかんかったお前にも問題がある。オレはちゃんと云うたがな、ちゃんと聞いてなかったんやないか。もうええ、知らん、大体お前は昔から計画性がない。何でそんなとこに結びつけんねん、今云うこと違うやろ、自分棚に上げて。うるさい、もう云うな。

とまぁ、こんな話を後輩として、お互い親父には苦労させられるなぁ、とオチをつけた。オレの親父は、もう家族に苦労かけることはなくなったが、後輩の親父さんは、今年もオーサカキングで迷子になるんだろーか。歳をとると融通が利かなくなってくるからなぁ。炎天下の大阪城公園で体壊さないように。