犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

お袋は 人の話を 聞かぬなり

夕食を終え、風呂を済ませてからも、なるべく居間にいて、お袋と過ごすようにしているのだが、これが少なからず疲れる。
同じ話を何度もする、と云うようなことはいい。そんなに気にならない。
固有名詞が怪しい、と云うのもよくあることだ。昔、「あんた、申し込んでたモアモアから書類が届いてるで」「モアモア?」「なんや云うてたやん。モアモアやん」「えーと、あ、もしかしてWOWOWか?」「そうそうそれそれ」 モアモアと聞いてWOWOWと分かるオレもオレだ。

そんなことより、とにかく人の話を聞かないのである。こちらが話をしても、伝えたいことが伝わらない。トンチンカンなのである。

以前、「なあ、こんな話知ってるか?」と、ある都市伝説について話したことがある。女優、室井滋の実体験という触れ込みで、けっこう話題になった話である。
ご存知の方も居るかと思うが、簡単に内容をフォローしておく。

深夜、仕事を終えた室井滋が、自宅マンションに帰ってきた。エレベーターに乗ろうとすると、入れ違いに降りる男とぶつかった。「あ、すいません」と声をかけたが、帽子を目深に被った男は、返事もせずにそそくさと帰っていった。
失礼な男だ、と思いながら部屋に戻り、落ち着いてからふと上着を見ると、血が付いている。え? 何で? あ、そうだ、もしかしてさっきの男、なんかヤバいことしてんじゃない? 気味悪く思いながらも、疲れていた室井は、その日はそのまま眠った。

翌日、オフなので部屋で休んでいると、呼び鈴が鳴った。ドアのレンズからのぞいてみると、一人の警官が立っていた。
「すみません。実はですね、昨夜このマンションで、殺人事件がありまして、ちょっと聞き込みをしてるんですが。昨夜、怪しい人物とか見かけませんでしたか?」
昨日の男のことだと思ったが、疲れていたし、面倒なことに係わり合いになるのもイヤだったので、
「いえ、わかりませんけど」
「・・・そうですか。何か思い出すようなことがありましたら、警察まで連絡して下さい」 告げて、警官は帰っていった。

さて、室井はロケの仕事があったので、しばらく家を空けていた。数日後ロケから帰宅し、観るともなくテレビをつけると、ニウスが流れた。
「○○区のマンションで発生した殺人事件の犯人が逮捕されました・・・」
画面に映っていたのは室井の住むマンションだった。ああ、やっぱりあの夜、ぶつかった男は人を殺していたんだ。でも捕まったのならよかった。そう思い、テレビを観ていると、逮捕された犯人の写真が映った。
それは、男とエレベーターですれ違った夜の翌日、室井の部屋を訪ねてきた警官だった。

ガキの使いやあらへんで」で、松本人志がこの話をしていた時の映像がYouTubeにアップされていて、最後のオチのところでは観客が悲鳴をあげていた。オレもこれ観たときには寒気がした。都市伝説とは云え、実によく出来た話である。

この話を、お袋にしたことがあるのだが、最後のオチを聞いたお袋は、
「ふーん。そう云えば、アタシも似たような体験あるで」
と云って、街で知り合いによく似た人を見かけた、と云うような話をし始めた。どこがよく似た体験なんだ!? 全然違うぢゃないか!
お袋の中では、どう云う回路でか、ホラー話と他人のそら似が結びついてしまったのであった。

オレの話し方が悪かった、とかそう云うことでもないと思うんだけど。我がお袋は、ネタ殺しである。