犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

舞台の方が面白い

会社の帰りに、高槻のTOHOシネマズで、映画「笑の大学」を観た。
NHK・BSで放送された舞台版は、ビデオに永久保存している。西村雅彦の自在な演技は、何度観ても酔わせられる。観客の意識と空間を、巧みにコントロールし、二人芝居を、見事に支えている。読んでいた台本をごみ箱に捨て、椿が激昂すると、ニヤニヤしながら、机の中から、椿の台本を出してみせるまでの流れなんか、何度観てもぞくぞくする。憎々しげで、それが段々愛おしくなってくる。「古畑任三郎」で見せた、エキセントリックな演技だけじゃないんだ、この人は。映画版に備えて、こないだも久しぶりに観なおしたのだが、やっぱり面白い。面白いと思いながら、映画版の出来が心配になっていた。
で、どうだったか。はっきり云って、水準以下だと思う。脚本の骨格がしっかりしているだけに、ちゃんと観られる出来にはなっていると思うが、演出が上滑りしている。監督の星護は、テレビのディレクターで、映像に凝る人らしいが、テクニックの無駄遣いをしているように思う。元々が、ひとつの場面のみで推移する、二人芝居で、それだけに、濃密な緊張感が空間を支配し、それが圧倒的な面白さに繋がっているのだけれど、カット割りの入る映画では、その緊張感が、どうしても拡散してしまう。それなのに、向坂が警官役に扮して何度も何度も走りこむシーンで、取調室を回りつづけるカットを長々と入れられると、印象がますます散漫になっていく。下手な演出の手本のようなものだ。
役者の印象も弱い。役所広司は、まあいいのだが、劇場の前で興味深そうに佇んでいる場面なんか、「Shall we ダンス?」みたいで、なんか、向坂のイメージと違うなぁ、と思ってしまった。それよりなにより稲垣吾郎だ。三谷幸喜は、絶賛したらしいが、ミスキャストと言ってしまっていいのではないか。口跡もあまりよくないし、なんと言っても、検閲官・向坂に追い詰められながらも、椿一というキャラクターには、向坂に対する突っ込みという側面がある。向坂がボケ役に、だんだんシフトしていくから、観客は、彼に感情移入するのだ。ところが稲垣は、「SMAP×SMAP」を観ても分かるように、基本的にボケの人だ。ワイン好き、ナルシスト、天然。そういうキャラクターで、メンバーから突っ込まれて、魅力を発揮する人なのだ。実際、映画の中で、稲垣の突っ込みはテンポが悪く、「もう一呼吸、うまく突っ込んでくれよ!」と、何度も思っていた。
期待していた作品なのだが、いまいち、と言わざるをえない出来だった。うーん、残念。次の期待作は、今週末の「血と骨」かな。