犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

四本目 戻るべき場に 戻るなり

シサシブリに映画を観てきた。三谷幸喜監督作品「ザ・マジックアワー
ラヂオの時間」「みんなのいえ」「THE有頂天ホテル」と観てきて、どんどんつまらなくなっていく三谷映画なのだが、観続けてきた者としてこの新作を観ないわけにはいかない。地元駅前のシネコンで13時前の上映を観た。

監督自身と主演・佐藤浩市が、公開直後、こと宣伝にあれだけ努めていたから、内容は6割くらい頭に入っている。この状態でどこまで楽しめるのか、かなり眉につばをつけていたのだが、ウン、丁寧すぎるくらい丁寧な、ウェルメイドコメディだった。映画が好きで好きで堪らない三谷監督の、その愛情にも溢れている。中井貴一唐沢寿明鈴木京香天海祐希香取慎吾山本耕史等々と云ったカメオ出演者の中で、やはり白眉は故市川崑監督だろう。三谷カントク、心憎い。

第1作「ラヂオの時間」での梅野泰靖氏(「幕末太陽傳」の徳三郎役)のような渋いキャスティングは、今回は柳澤愼一氏であろう。ジャズシンガーでもあり往年の日活プログラムピクチュアコメディの主演者でもあった柳澤氏への、礼を尽くした演出は正に三谷カントクの真骨頂だ。この人は邦洋問わない掛け値なしの映画ファンなんだなぁと思う。

映画のセットのような港町(これは映画なのだから勿論その通りなのだが、この二重の仕掛けで観客は荒唐無稽な物語にスンナリ入っていける)が三谷氏のホームグラウンドである舞台劇のような効果を生む。「ラヂオの時間」の成功もこの「舞台劇のよう」と云う部分にあった(それに「ラヂオの時間」は元々舞台劇である)。カントクはやはり、ここに戻ってくるべきだろうなぁ。「THE有頂天ホテル」がダメだったのは、豪華キャストをホテルの様々な場所に配置したら、ドラマが拡散してしまった、と云う点だ。この人は、ロバート・アルトマンのような映画ならではの群像劇には向かない。今作品のようにメインキャストを絞った舞台的な映画を作り続けるべきだ。

エンドタイトルはミュージカル「シカゴ」のような編集で、ここも映画ファンとしては嬉しいサービス。楽しめました。

例えば「蒲田行進曲」のように、ラストシーンで映画としての屋台崩しを見せてしまう過激さがあってもよかったかな、と思ったが、そこまで踏み込んでしまわないのが、三谷カントクの限度でもあり、節度でもあるんだろう。そこまで望むのはすこしずれてしまうかもしれない。
いずれにせよ、快作「ラヂオの時間」以降、フジテレビと東宝の資本でダメな映画を作ってきた三谷氏が、復活の兆しを見せた佳作でした。

ホントは「神様のパズル」を観たかったんだが、上映館が少ないんだよなぁ。