犬と暮らす人

2011年1月まで、ラブラドール・レトリーバー「タイスケ」と暮らしていた、表はフリーのシステムエンジニア、裏はなんちゃってジャズギター弾きの日常。

「サマータイムマシン・ブルース」

さて、「容疑者」が公開された翌週、「交渉人」の本広克行監督の新作が公開された。これが、一連の「踊る」映画版や、「スペーストラベラーズ」と違った、なんともスケールの小さな映画。タイムトラベルという壮大な題材を扱いながら、このちんまり具合はただ事ではない。かの「タイムボカン」でさえ、主題歌では「♪過っ去と 未来と 昨日と 今日を 行ったり来〜た〜り〜〜♪」と唄いながら、結構大きく歴史の壁を飛び越えてたのに、この作品では、本当に昨日と今日を行ったり来たりするだけなのだ。しかも目的が、輪をかけるようにチンケ。部室のクーラーのリモコンがぶっ壊れてしまったために、暑さにうだる連中が、偶然手に入れたタイムマシンで昨日に出かけ、壊れる前のリモコンを取ってこようとするのだ。軽〜い気持ちで過去に跳んだものの、ことの重大さにあとになって気付き、つじつまを合わせるために、昨日と今日を右往左往する。オープニングからゆる〜い連中の、ゆるさ故に際立つ青春のバカさ加減が、実に可愛い映画。
タイムパラドックスという大問題は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも、マーティやブラウン博士を翻弄し、その解決のために、ハラハラドキドキのアクションが繰り広げられた。時計塔に落雷があるその瞬間に、デロリアンの次元転移装置に1.21ギガワットの電力を送り込まなければならない。ところが、スタートのリミット寸前でエンジンは止まるは、避雷針から配線は外れるは、トラブルが続出しながらも、最後の最後に、大きなカタルシスが訪れる。伏線がきれいに収まって、オールオッケー、ハッピーエンド。
サマータイムマシン・ブルース」は、「BTTF」ほどの映像スケールはないけれど、伏線がぱちりぱちりと収まっていく快感は見事に匹敵している。しかも優秀なのは、「BTTF」がハッピーエンドにこだわるあまり、未来を変えてしまった(父親とビフの関係や、兄や姉の雰囲気が、開巻時から大きく変わってしまう。これはこれで、気持ちいいのだけれど)というのに、「STMB」は一切それをやらなかったことだ。唯(真木よう子)が語る、「未来は変えられないのかもしれない」という台詞が、原作者、ヨーロッパ企画上田誠の基本的な考え方なのだろう。それでいて、彼は実に見事に、糊代を用意してくれる。春華(上野樹里)がなんとなく気になる甲本(瑛太)が、偶然、春華の未来の苗字(つまり結婚相手の苗字ですな)を知ってしまい、どんな考えを持つのか、とか、最初のタイムマシンは、いつ、誰が造ったのか、SF研顧問の大学助手、ホセ(佐々木蔵之介)が、熱心にスケッチしてたけどなー、とか。このスケール小さな映画にも、ちゃんと魔力は備わっている。分かりやすいカタルシスに走って、未来を変えてしまった「BTTF」よりも(特に、2作目なんてのはグダグダの極北でしたもんね)、観客の心に、ハッピーエンドの尻尾をスッと差し出してみせた「STMB」の方が、オレはフェアだと思うし、好きだ。
真夏のとある日。田舎の大学。ゆる〜い連中のゆる〜い日常。そこに突然現れる、どこかとぼけた非日常。夏の終わりに届けられた、愛すべきミニミニ・スペクタクル。今年、色々見た映画の中で、今ンとこのベストワンです、ハイ。

の影響で、お江戸の方は、豪雨で大変なようで。
明日の夜、西日本直撃だそうです。
早明浦には降ってほしいものの、それ以上の被害が出ては本末転倒。
皆様、それぞれ気をつけましょう。